スプリット開発秘話

VALORANTのレベルデザイナーがマップ「スプリット」の制作過程について、開発初期から最終コンセプトまでご紹介します。

皆さん、こんにちは!VALORANTのリードレベルデザイナーのChris Carneyです。今日は伝説のレベルデザイナーSal Garrozzoとともに、「スプリット」がラフなアイデアから完成に至るまでの過程についてお話します。

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VALORANTのマップのデザイン哲学は比較的にシンプルです。VALORANTには様々なアビリティを持ったキャラクターが存在し、それぞれが複数の武器を使用できるため、考えられるチーム構成は膨大な数となります。そこで、一つひとつのチーム構成に対して理想的な戦闘状況を用意しようとするのではなく、各マップを特定の方向性に特化させようと考えました。

たとえばマップ「バインド」の場合は、「スパイク設置地点が2つある標準的なマップにおいて、側面攻撃のルートを提供することが多い中央エリア(ミッド)を無くしたらどうなるか?」といった具合です。そこから「それは5人チームで攻撃/防衛する際にどのような影響を与えるのか?」や「そのような制約のなかで上手く機能するマップを構築するにはどうすればいいのか?」ということを考え、マップデザインの目標を決めていきます。

ここでの狙いは、単なる「ギミック」を加えることではなく、地形構造から生み出される固有のゲームプレイ体験を中心にマップを構築することです。そのため、一方通行のテレポーターや昇降システムといった仕掛けは、この目標の達成に役立つかどうかという指標の下、追加するか否か見極められます。

目標が明確になったら、次はそのような体験がゲームとして機能するかどうかを検討します。テストプレイをして、マップが上手く機能していないと感じたら、それはやり方が悪いだけなのか、目標自体がゲームに合っていないのかを判断します。上手く機能すれば、それを改良していく作業に集中します。プレイヤーにとって各マップは克服すべき新たな挑戦となり、これによってマップローテーションがゲームプレイの多様性を生み、各キャラクターやチーム構成が活躍できるようになるのです。

もちろん、常にすべてが上手くいくわけではありません。グレーボックス(地形を組み上げただけの、プレイ可能な段階としては最初期のもの)のまま、日の目を見ることがなかったマップも存在します。その一方で、長期間のテストを生き延び、文字どおり数年にわたる改善を繰り返して、正式リリース版のマップとして採用されたものも存在します。

「スプリット」はそんなマップのひとつでした。

マップ構築

スプリットでは、スパイク設置地点のほかに「設置地点の防衛または制圧の鍵となるエリアを作る」ことがテーマとなっていました。要するに「キング・オブ・ザ・ヒルのようなタクティカルマップを作る」ということです。

初期のデザインでは中央に防弾ガラスを張ったタワーがひとつ存在し、ディフェンダーはそこから接近してくるアタッカーを見ることができました。テストプレイを行ってみると、確かにタワーは占拠すべき価値のあるエリアとなっていましたが、あまりにも強力すぎたため、スパイク設置地点で戦闘が行われなくなってしまいました。そこで1つだったタワーを2つの小さなタワーに分け、それぞれが各設置地点を監視できるようにしました。

このバージョンではタワーにアクセス可能なミッドエリアだけでなく、スパイク設置地点の周辺でも戦闘が発生するようになりました。2つのタワーはアタッカーのスポーン地点ではなくそれぞれの設置地点を見下ろしているので、アタッカーにとってもディフェンダーにとっても強力な監視場所として機能しました。アタッカーがタワーを奪うことで設置地点を確保しやすくなるという、ゲームプレイ上の特徴を作り出すことができたのです。

なかなかいい感じに仕上がりました!…が、依然ミッドの重要性が高過ぎるままで、2つのタワーとスパイク設置地点の結びつきもまだまだ十分ではありませんでした。

そこで3つ目のバージョンでは、タワーをスパイク設置地点に近づけることで、設置地点を中心とした戦闘の一部に組み込むことにしました。プレイヤーはタワーから設置地点に向かって飛び降りたり、はしごを使ってタワーに昇ることもできます。これらの要素自体は上手く機能していたものの、タワーを動かしたことでミッドが意図せず大きくなり、侵入経路が増えてしまったせいで、相変わらずミッドが戦闘の中心となっていました。まだまだ改善が必要でした。

最終的にたどり着いた解決策は「ミッドを2つに分けてそれぞれを通路で直接つなげること」でした。現在の「ベント」と「下水道」がこれです。ミッドを2つに分けることによって、そこで行われる戦闘も2つに分断し、それぞれのタワーの侵攻/防衛に意識が向けられるようにしたのです。さらに、スパイク設置地点を調整し、タワーを奪わなければ確保が難しくなるようにしたことで、ようやく「設置地点の防衛または制圧の鍵となるエリアを作る」という狙いを実現できました。

マップの構造については満足のいくものが出来上がったので、次はアートプロダクションへと進みます。

デザインした空間を形にする

スプリットと同様、VALORANTの世界観も方向性が何度も変化したのですが、最終的に地球上に実在する場所を舞台にすることが決まりました。VALORANTの戦闘の基本は現実世界の武器を使ったタクティカルFPSであり、アビリティーを使用した派手な演出がそれに刺激的なアクセントを加えるといったものです。この特徴をマップの環境にも反映させたいと考えました。

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スプリットは日本の都市を舞台とすることに決まり、そこでは「キングダム」がその勢力を拡大するのにあわせて人々の生活が変貌していく様が描かれることとなりました。このコンセプトをバックボーンに据えることで、都市の広場や路地がマップの地形構造と上手くマッチし、ところどころで近未来的なかっこよさを演出することも可能となったのです。マップのアートチームからはさらに、「キングダムの巨大な研究開発施設の影に潜みながらも、それに隣接している旧世界の都市」というアイデアも出てきました。

私たちはアートによってゲームプレイを明確にすることを常に意識しています。スプリットにおいては、タワーやスパイク設置地点をプレイヤーの意識にはっきりと印象づける必要があったので、Bサイトを旧市街、Aサイトをキングダムの最新テクノロジー施設として、まったく雰囲気の異なる2つのセクターに分けることにしました。各地区の中心にはレディアナイトジェネレーターが存在し、それがスパイク設置地点の目印になっています。

都市のビジュアルは、目立ちすぎるとプレイヤーの方向感覚を狂わせたり、移動の邪魔になったりする可能性があります。戦術を駆使して敵と戦う前に、マップのレイアウトと戦わなければならないようでは良いマップとは言えませんが、スプリットでは前述のビジュアルテーマに沿ってマップを2つに分けることで、マップの特色にあった特徴的なポイントを作り出すことに成功しました。こういった特徴づけはあらゆるマップデザインにおいて鍵となるものであり、空間自体の構成とあわせて、エリア間のつながりを感覚的に把握するために役立ちます。

こうしてスプリットはリリースされる運びとなったわけですが、今後もプレイヤーの皆さんの力を借りながら、ブラッシュアップを続けていくつもりです。パッチ1.0で変更された「Bタワーとミッドをつなぐエリア」についても、上手く機能しているかどうか注視を続けています!

今後は他のマップの開発過程についてもご紹介していく予定ですので、ご期待ください!それでは…スプリットでお会いしましょう!