「エルダーフレイム」に生命が吹き込まれるまで

いまだかつてない野心的なデザインの武器スキンに生命を吹き込むまでの物語を、プレミアムコンテンツチームがお話しします。

VALORANTコミュニティーの皆さん、こんにちは。Preeti Khanolkar(プロデューサー)とSean Marino(アートリード)が再びお届けします。私たちはこれまでに、ベースとなる武器のデザインや、コンペティティブ・インテグリティを逸脱しない範囲でスキンにファンタジーを与えるまで、などをお話ししてきました。そして今回は、プレミアムコンテンツチームが「いまだかつてない野心的な武器スキン」を作り上げるまでの経緯をお話ししたいと思います。そのスキンとは──「エルダーフレイム」です。

編集者より:「エルダーフレイム」と名付けられるまで、このスキンシリーズは1年以上もの間「ドラゴン」というコードネームで呼ばれていました。当記事内でもこのスキンを「ドラゴン」と呼んでいますが、これも「エルダーフレイム」の物語に最適であるがゆえのことです。

「ドラゴン」は2015年からずっと私たちが心の中で温めてきたスキンシリーズです。これはVALORANTに対する私たちの愛情の証であり、武器スキンの限界に挑戦するという(ベースとなる武器が完成するよりも前からの)夢であり、そして私たちの強い想いの現れでもあるのです。私たちにとって「ドラゴン」はまさに想定外の連続でした──どんな写真やコンセプトアートをもってしても「呼吸する、生きたモンスター」という私たちのビジョンを完璧に表現できなかったのです。

「ドラゴンを作るにはまだ早いよ」

2018年、シニアコンセプトアーティストのTimur Mutsaevが「ドラゴン」のコンセプト第一稿をデザインし、それは後に「エレメンタルドラゴン」と呼ばれるようになりました。それは素晴らしいポテンシャルを感じさせるもので、チーム内でも盛り上がったのですが、当時はまず作業そのものを始めようがありませんでした。その時はまだVALORANTにおけるスキンのアートスタイルを把握しておらず、またシステム的にどの程度のことができるのかも分かりませんでした。そもそもベースとなる武器ですら、まだすべて完成していなかったのですから。

「ドラゴンを作るにはまだ早いよ」──あのカッコいいドラゴンのスキンはいつ作るのか、と聞かれたときのMarinoの答えはいつもこうでした。

「…ホントに作るの?」

2019年までに改造スキンの第一弾を数点完成させたことで、「ドラゴン」の制作がにわかに現実味を帯びてきました。

しかし、アートやデザイン面の(山積みになった)課題を片付ける前に、まずは本当にこれを作るべきかどうかを検討する必要がありました。VALORANTというゲーム自体の現実的なトーンとの兼ね合いもあり、ドラゴンのスキンがプレイヤーに受け入れられるかどうか、チーム内の一部にも疑念が残っていたのです。

その間に新スキンのネタ出し作業は始めていたものの、チームはまだどこか「ドラゴン」に後ろ髪を引かれたままでした。それはPreetiがネタ出し用のホワイトボードにドラゴンのアイデアをこっそり混ぜたところ、案の定チームの何人かがそれに投票してしまったほどに。

また、世界規模で行ったスキンのコンセプトについてのテスト結果から、ドラゴンがプレイヤーに好評で、VALORANTの世界に求められていることが判明したことは、私たちにとって大きな自信となりました。

身体構造の学習

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次に、ドラゴンの造形や身体構造(あまり気持ちの良いものではないですが)と、それの視認性を確保しつつ各武器の形状に落とし込む方法を考える必要が出てきました。ヴァンダルやオペレーター、ジャッジについては困難が予想できていたものの、実際の最初の難関はピストルでした。というのもピストル用の「ドラゴン」スキンは、その身体構造をリロードアニメーションに反映させるのが難しかったのです。幸いにもフレンジーについては、どうにか身体構造と統一感を保ちつつデザインを仕上げることができました(これについては後述します)。

さらに、まるでドラゴンが生きているかのように見える武器アニメーションは作れないだろうか?このスキンはゲームプレイに悪影響を及ぼさないだろうか?そして、そういったアイデアや制限を踏まえた上で、どれだけファンタジー感を強く押し出しせるだろうか?

完成したコンセプトアート(ありがとう、Timur!)と制作への強い決意をたずさえ、Preetiは再びMarinoに「ドラゴン」の開発を始められないかと持ちかけてみました。

しかし、その返答はまたしても「ドラゴンを作るにはまだ早いよ」でした。というのも…

  1. 当時まだ不足していた技術を開発する必要があった
  2. その前に改造スキンをもう何点か手掛け、チーム全体がさらに経験を積む必要があった
  3. 1つのスキンを作り始めてから完成させるまでの所要時間を把握する必要があった(他のスキンに割くべき時間までこのスキンの制作にあててしまわないようにするため)
  4. 一定の水準を満たせるかどうか、チームのアーティストたちにもまだ不安が残っていた(このチームの専門は銃器であり、生物ではなかったため)

Marinoがついに「ドラゴンを作ろうか」と言ったのは、2019年の夏も終わりが近づいていたころでした。最初は誰も信じませんでしたが、とにかくこうして作業が始まったのです。

モンスターとしての特徴

「ドラゴン」という言葉はすでにイメージが固まっており、好きな解釈をすることはできません。例えばドラゴンは炎や氷、電気といった元素の力を帯びているのが常です。民話や神話のイメージを元に描かなければ、土産物屋のキーホルダーみたいになってしまう可能性もあります。この「ドラゴン」のビジョンを固めることで、アーティストたちも各々の担当箇所の作業を進めやすくなり、ひいては全体の開発速度が向上するのです。

そのためにリードデザイナーであるTrevor Romleskiのデスクに8人ほどの開発者が集まり、楽しくも白熱した議論が起きたことがありました。結果、みんな同じものだと勘違いしていた人もいた「ドラゴン」、「ワーム」、「ワイバーン」、「ドレイク」、その他諸々の神話上のモンスターの違いについて、チーム全員の見識が深まったのでした。

実際に自分たちが作るのは「ドラゴン」ではなく「ドレイク」だよ、と言い出したのはTrevorです(分かりましたよ、ありがとうTrevor)。この議論がアイデアの方向性に影響することはなかったものの、なかなかためになる経験ではありました。

疑問と想像を繰り返し、私たちはまず4つの基本コンセプトを定めました。「ダークで不気味」「生きていて呼吸する」「忠実」、そして「危険」です。

強くてカッコいい、というのがこの「ドラゴン」のイメージです。可愛いのはダメです。念のためもう一度言います。可愛いのはダメなんです!些細なことのように思われるかもしれませんが、この「カッコいい」と「可愛い」のイメージの違いをきっちり踏まえておいたことで、「ドラゴン」の開発中に重要な決定を下しやすくなりました。私たちのドラゴンは『ヒックとドラゴン』よりもむしろ『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するドラゴンに近いものなのです。

とうとう制作開始!

音源とインスピレーション

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2019年8月19日──正式に「ドラゴン ヴァンダル」の制作が始まりました。いつもならパーツごとに分割された3Dモデルから作り始めるところなのですが、今回はなぜか効果音が最初にできました。

サウンドデザイナーのIsaac Kikawaはとても落ち着いた男で、その日も何気ない感じでチームに数分間の音源を送ってきました。目を閉じて、特に期待もせずに聴いてみると、最初の数秒でそれが彼がドラゴンに与えた「声」…力強く、身の毛もよだつような、誰が聞いてもドラゴンがと分かる声であり、これには私たちも大いに刺激を受けました。

Isaacによると、このドラゴンの咆哮は様々な動物の鳴き声をミックスして作ったそうです。セイウチやベンガルトラ、そしてもちろん、ショウジョウインコも。また、Marinoの母親がたまたまスマホで撮影したワニの動画からも音声をリッピングして使ったとか。

「ドラゴン」をリリースする2ヶ月前ほど前には、Isaacはさらにフィニッシャー用の追加録音と称して、大きなラクダと戯れてきたようです。

コンセプトとモデル

新たにチーム入りしたシニアコンセプトアーティストのDenis Lakhanovの最初の仕事は「ドラゴン」版のフレンジー、オペレーター、そしてジャッジのコンセプトアートという、なんとも手強いものでした。しかし彼のフレンジーのデザインを一見しただけで、それぞれのドラゴンが独自の個性を持ち、様々な構成要素が組み合わさって命が吹き込まれていることがすぐに分かりました。

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中でもジャッジは特に凶悪でしたが、その他のすべてのコンセプトアートにもこれと共通する気性の激しさが感じられました。

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スコープをどうにかして作らなくてはならなかった時、Denisは「背中に折りたたまれた翼がスコープの形状になっているドラゴン」という案を掘り下げることにしました。イメージの方向性がきっちり決まっていたにも関わらず、チームはちょっと間抜けな感じの、憎めないドラゴン(下図の1番)の案を採用しそうになっていました。これはこれで面白く、親しみやすくはあったもの、やはりイメージに合わなかったため、最終的には2番と3番をミックスして使うことになったのでした。

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Marinoはまずヴァンダルの3Dモデルから、その顔がちゃんとカッコよくできているかどうか、デザインを確認する作業を始めました。そう、「可愛いのはダメ」なんです。また、モデリングに関してはマガジンも難関でした。溶岩でできた、動物のフンにそっくりなマガジンなら作るのは簡単なのですが、今回はそのどちらも作りませんでした。

その他のドラゴンたちの3Dモデルについては、アウトソースマネージャーのHayley Chen-O’NeillとJoel Kittleが、ゲーム向けの超高品質3Dアートに特化した外部パートナーの協力を取り付けてくれました。フレンジーとジャッジもかなりの難関だったのですが、本当に手に負えなかったのはオペレーターで、完成を放棄する寸前まで追い詰められました。大きな翼の生えた不細工なオペレーターで妥協すべきではないか、と考えたことが当時何度もあったのです。とはいえプレイヤーの期待は絶対に裏切れないので、最終的には何とかやり遂げました。

アニメーション

プレイヤーと共に行った最初期のプレイテストの経験から、ゲームプレイ上で最も重要な要素はアニメーションであることを、シニアアニメーターのSean McSheehanは理解していました。

フィードバックから判明した最も重要なポイントは、「キャラクターが銃を直接手で扱わないと、いつ射撃可能になったか分かりにくい」ということでした(ちなみに、プロトタイプでは銃を「召喚」するアニメーションの実験も行っていました)。こういったプレイヤーとの実験やデザインチームでのプレイテストを経て、McSheehanはキャラクターの手の動きが、ベースとなる銃のリロード動作のリズムと一致する必要があると気づきました。そうしないと、実際の速さは変わらないのに、リロード速度が遅く感じられる可能性があるのです。

McSheehanは個々のモーションをきっちり確認するとともに、自分の作業で少しでもズレが生じないようにするため、デザイン作業と足並みを揃えるようにして作業を進めました。

また、アニメーションは「ドラゴン」の様々な個性が顕著に現れる部分でもあります。最初のテストはヴァンダルを使って行われ、「必死にマガジンを引っ掻いたあと怒り狂う」というものでした。

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上記の案はヴァンダルには合わなかったものの、フレンジーのリロード動作に素晴らしいインスピレーションを与えました。必死に「エサをねだる」リロード動作は、このドラゴン一族の赤ちゃんにぴったりだったのです。また、McSheehanはこのフレンジーの尻尾を活用して、あたかもプレイヤーの手の中でドラゴンがジタバタしているかのような感覚を表現しました。

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ジャッジに関しては、Denisのコンセプトデザインはいわば「サイ」のようなものでした。大きく、不気味で、障害物を力づくで突破するような存在です。また、短気で怒りっぽいため、リロード動作中にマガジンを噛み砕きます。この初期のアニメーションテストでは演出が過剰にも感じられましたが、ジャッジの粗暴さがうまく表現できていたことから、最終的にはこの案が採用となりました。

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「ドラゴン オペレーター」はその大きさもあってか、長い年月を生き抜いてきたドラゴンのような雰囲気が武器そのものにありました。そのため、動作は流れるようにスムーズかつドラマチックです。そしてリロード時には小さな鼻息を立てるのです。ヴァンダルやジャッジほど攻撃的ではないものの、相当に危険な存在なのです。

McSheehanの手掛けた、ドラゴンたちの生命が感じられる待機状態での「静かな呼吸のモーション」も必見です。

視覚効果

チームのシニアVFXアーティストであるStefan Jevremovicは、それぞれのドラゴンに煙や残火、火柱など、あくまでも火炎の領界内で様々なエフェクトを用意しました。また、ドラゴンたちの凶暴かつ危険な雰囲気をより強めるため、待機状態のドラゴンの体内にも炎のエフェクトを追加しました。この炎のエフェクトはドラゴンたちの呼吸に合わせて明滅し、それが鱗の隙間から見えるようになっています。

「ドラゴン」に限らず、VALORANTのあらゆる近接武器の印象は、この視覚効果に特に大きく左右されます。まずはコンセプトアートから。どんな近接武器が考えられるか、丸々1本のドラゴンの爪から、文字通りの赤ちゃんドラゴンまで、Denisにいくつかの案を出してもらいました。しかし、赤ちゃんドラゴンは1匹いれば十分です。

さらに、ひ弱な赤ちゃんが首を絞められているように見えるのも、あまり印象がよくありませんでした。

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赤ちゃんドラゴンを近接武器にするのはやめておこうと決めたことで、「なら武器に炎をまとわせてもいいのではないか」と私たちは考えました。これは、このゲームでの銃に対する近接武器の存在感を高めたことを自覚した瞬間でもありました。やりすぎないギリギリのところまでStefanが炎と煙のエフェクトを加えていった結果は…予想以上の大好評でした。Sal Garozzoまでもが私たちのところに飛んできて、この近接武器がとても気に入ったと言ってくれました(彼は基本的に、ゲームプレイに悪影響を及ぼさない限りスキンについてはあまり口出ししないので、「この近接武器を作ったのは誰だ?」と聞かれた時はてっきりダメ出しされるのかと思ったものです)。

そこでStefanはこの近接武器をさらに磨き上げ、それから過去に手掛けた近接武器スキンの一部もエフェクトを強化しました。

ではここでペンを置いて、一息

この記事を書いている今、私たちはクロマ素材やクロマ用エフェクト、フィニッシャーといった「エルダーフレイム」(今はもう「ドラゴン」とは呼んでいません)の最後の仕上げ作業を行っています。それと、「エルダーフレイム」が人間の両手に収まるような小さなモンスターではなく、巨大なドラゴンであることを想起させる「エルダーフレイム」カードも。

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「エルダーフレイム」という名前は、どこか別のファンタジー世界で繁栄し、その地を支配しているドラゴンの一族を想起させるために考案されたものです。こんなにも方向性が明確に決まっていても、このスキンシリーズの名前を決めるのは大変でした。

他の様々なスキンや外見アイテムと合わせてリリースするために、自分たちが愛し、多くの情熱(正確に言うと、10ヶ月分の情熱)を注いだものに名前を付けるというのは、なんとも形容しがたい、骨の折れる作業なのです。本当に。

そうです、それとゲームです。私たちはゲームを出したんですよ。そして、その中に「ドラゴン」が登場するんです!