エージェントの現状 - 2022年9月

現在のエージェントのメタの他に、バランス調整の際に用いる主な視点について詳しくお話しします。

皆さんこんにちは、John Goscickiです。今年2回目となるエージェントの現状は、Alexander MistakidisDan “penguin” HardisonRyan Cousartの3名のエージェントデザイナーをフィーチャーした、2枚組コラボアルバムのような形でお届けします。

今年はパッチ3.0以来となる、エージェントに関する大型アップデートがいくつか実装されました。今回は、開発チームがバランス調整に用いる様々な視点について、いつもより詳しく説明を行います。さらに、エージェントに対するプレイヤーの認識や、開発チームが勝率やピック率などのデータから得る情報を、そのような認知とどうすりあわせるかについても集中的にお話ししたいと思います。

そして… 次のエージェントに関する情報もほんの少しお見せします。

エージェントとゲームの現状 —Ryan Cousart

この1年で行ったエージェントへの変更により、ロールの多様性、特にイニシエーターのロールに少し動きが見られました。フェイドが追加されたことで、それ以前の数か月はソーヴァの独壇場だった偵察ロールにおいて、選択が分かれるようになりました。プレイヤーの選択肢が増えることを歓迎する一方、エリアのクリアリングなど、フェイドが強すぎる場面もあると考えています。ですので、彼女のユーティリティーに調整を施すことを検討しています。

ブリーチはマップ「フラクチャー」における強さでピック率を上げており、コンペティティブではKAY/Oが台頭し始めています。また勢いを増しつつあるエージェントは他にも数名存在します。その数名の中には健全に成長するエージェントも居る一方、開発チームから見て調整が必要と思われるエージェントが居るのも事実です。

皆さんも、チェンバーがセンチネルの役割を独占し、同ロールのエージェントの存在感をますます希薄にしていることにお気付きでしょう。チェンバーについてはすでに漸増的なアップデートで問題への対処を始めていますが、コンペティティブやChampionsの試合を見る限り、まだ対策が必要と思われるため、引き続きこの点に集中していく予定です。

さて、ここでこの記事の重点となるトピックにたどり着きました。エージェントに変更が必要か否かはどう判断されるのか?そして、アップデートにより目標を達成したと判断するための監視はどのように行われるのか? という問題です。

開発チームがエージェントのバランスを調整する際は、「どのような変更が必要で、その変更の目標は何なのか」ということを複数の視点から検討します。つまり、単一の尺度に基づいて調整を行っているわけではないということです。

以下は、私たちがよく活用する視点の一部について簡潔にまとめたものです。

  • ソロキューでの勝率とピック率
    • 私たちが収集するゲーム内データは多岐にわたりますが、まずエージェントの強さを評価をするため、複数のMMR帯の複数のマップにおけるエージェントのミラーマッチ以外での勝率を確認します。
    • 「ミラーマッチ以外での勝率」とは、対戦する相手同士で同じエージェントを選択しなかった場合での勝率です。ミラーマッチの勝率を含めないのは、同じエージェントが対戦する試合では必ず片方が勝って片方が負けるため、人気のエージェントだと自然に勝率が50%近くになってしまうからです。
    • さらに、エージェントのピック率も同様に分かれていた方が役に立つ場合が多くあります。これにより、数値的に強いエージェントと、プレイヤーが好んで選択するエージェントの差異と類似点について一定の理解が得られます。
  • プレイヤー認知
    • エージェントに対する意見を得る手段としてSNSも重宝していますが、私たちがバランス調整に用いるプレイヤー認知データの大部分は、皆さんがどう感じているかという回答から成っています。世界中のプレイヤーを対象に多くのアンケートを実施して、皆さんがVALORANTやエージェントについてどう思っているか、また現在のメタでどのエージェントに対して強すぎる、弱すぎる、イライラするなどと感じているかを理解しようとしています。
  • プロシーン
    • 私たちはプロシーンのピック率やトレンドを精査して、あらゆる状況においてプロチームやプレイヤーがどのエージェント、構成、ユーティリティーを重視しているか理解するべく行動しています。
  • デザインの原則
    • 私たちは何よりも、チームが掲げるデザインの原則にエージェントが適合するかどうかを評価しています。検討することの一例に、以前からも何度もお話ししてきた「エージェントの鮮明さ」があります。これは各エージェントが他のエージェントと比較して明確な強みと弱みを持っているかどうかという意味です。もしエージェントがデザインの原則から外れていれば、それが他の視点から見ると差し迫った問題ではなくても、変更の対象となることがあります。

様々な視点から同時に問題を検討すると、しばしば矛盾するストーリーが浮かび上がってくることがあります。私たちの仕事の大部分は、そうしたストーリーのひとつひとつが、何を伝えているかを分析することです。そこからは、浮かんだ疑問を適切な視点を用いて分析し、提案された変更の方向性について確信を高め、テストを行ってから実際のゲームに実装します。実装後は、バランス面の視点からその変更が与える影響に注視し、新しいパッチに適応しながらプレイヤーの行動がどう変化するかを観察していきます。これにより、将来のアップデートに向けて私たち自身のVALORANTへの理解を深めることができるのです。

ゲームバランスのデザイン VS バランスの認知 —Alexander Mistakidis

こんにちは、Alexanderです。バランス認知について、私からもう少し詳しく説明します。VALORANTのバランス調整方法の記事でお話しした通り、私たちの仕事は、あらゆるプレイヤーにとって公平な体験を提供することです。

公平性を追求するために私たちがよく検討することの1つは、プレイヤーが現在のゲームバランスをどう認知し、どのような体験をしているかということです。私たちデザイナーがゲームの健全性を改善し、バランス問題を解消しようとする際、私たちはプレイヤーの意見やデータ分析、そして現時点の強さと意図した強さのデザインに関する議論を通してメタを理解する必要があります。

VALORANTチームにとって、プレイヤーがゲームバランスをどう感じているかということは、実際の数値に表れるゲームバランスと同等に重要なことです。バランス調整は、プレイヤーが実際どのようにゲームをプレイしているかに基づいて行われています。と言っても、これはついカッとなったときの行動や、不誠実な行動に基づいてバランスを調整しているという意味ではありません。バランスは、メタ──つまりプレイヤー全体の選択により形成されます。プレイヤーのVALORANTへの取り組み方のメタは、地域やスキルなどによって異なります。メタとは、パッチからパッチにより形を変える「生き物」です。そして、その生き物に良い影響を与えるようなものこそが、VALORANTへの効果的な改善策なのです。

パッチ導入後、プレイヤーが新たな変更に慣れるまでには長い時間がかかる場合があります。プレイヤーの行動が経時的にどう変化するか理解できるまで、気長に待つ必要があるのです。完璧なゲームバランスとは、スプレッドシートや計算式だけで作られるものではありません。バランスが良くてもつまらないゲームもあるのと同様に、バランス改善のために導入された変更が、プレイヤーがそのゲームの美点ととらえていたことを台無しにしてしまうこともあるのです。私たちは、そのような変更は避けるようにしています。

ゲームのバランスを改善するはずだった調整が、実際にはプレイヤーの行動に変化をもたらさなかったケースもあります。例えば、あるエージェントを強化したのに、プレイヤーにはそれが強化と認識されず、プレイしてもらえなかったら──この場合、問題を改善どころか悪化させたことになります。比較的強いのにピック率が低いキャラクターをもっとピックしてもらうために強化しようにも、もうこれ以上の強化のしようがないケースもあります(ブリムストー…ゴホッゴホッ)。私たちはアップデートによりエージェント間のバランス調整を図ると同時に、ゲームバランスに対するプレイヤーの認識を変えることによって、プレイヤー自らメタを進化させるよう促そうともしています。

認知とデータが一致しない際のバランス調整 —Dan Hardison

こんにちは、Penguinです!Alexanderは上のセクションであらゆるプレイヤーのためにバランス調整を行っていることについて説明がありました。私からは、最もレベルの高いプレイヤーの間でも、ランク戦の強さに関しては認知と現実が必ずしも一致するわけではないという刺激的なデータをご紹介しようと思います。

これはただのトリビアとして紹介するわけではありません。下記の「興味深いデータ」を、Alexanderが言っていたことを思い出しながら読んでみてください。

エージェント

興味深いデータ

KAY/O

全MMRのランク戦を通じて比較的弱いとみなされているのに、プロシーンではピック率が高い。

ブリーチ、ブリムストーン、ネオン

5人プリメイドのような協力プレイの設定でこれらのエージェントをプレイすれば、ソロキューよりも活躍でき、特に最高MMR帯でその傾向が顕著になる。

ヨル、ネオン

練習に時間をかける必要がある。ほとんどのエージェントの上達には時間が必要だが、この2人は最高MMR帯でも特に高いプレイスキルを要するキャラクターとして目立っている。

フェニックス

最高MMR帯のソロキューで3番目に強いエージェント。

ブリムストーン

このエージェントが強いと思うプレイヤーに対し、弱いと思うプレイヤーはその3倍いるが、実は最高MMR帯では最も勝率が高いエージェントの1人。

セージ

プレイヤーの感覚では4番目に弱いキャラクターとみなされているにもかかわらず、ランク戦では全スキル帯を通して未だに最強のエージェントの1人。



Alexanderの話に込められた哲学こそ、KAY/Oが大多数のプレイヤーの勝率に基づいて考えると最弱のエージェントであるにもかかわらず、大規模な強化を施されていない理由なのです。データにおいてもKAY/Oのアビリティーは強力であることが示唆され、プロプレイヤーは彼を使いこなしています。プレイヤーに実施したアンケートの結果でも彼は弱いとはみなされておらず、さらに言えばVALORANTのデザインチームが彼をプレイする場合でも彼を弱いと感じる開発者はいません。KAY/Oになにか変更を施すとすれば、現在のプロシーンに見られるようなKAY/Oのポテンシャルを向上させるようなものではなく、直感性と利便性の向上に留めた調整となるでしょう。

KAY/Oとは反対の問題を呈しているのがチェンバーです。

チェンバーのランク戦におけるデータは、勝率に関しては警戒すべきことはありませんが、彼がエコシステムに与えている影響はネガティブなものであると言わざるを得ません。プレイヤーのゲームスキルが向上するにつれて彼のピック率は劇的に上昇し、明らかに彼が強すぎることを示唆している他、私たちがプロシーンで意図した以上に多くのマップにおいて必要不可欠なエージェントになっています。ですので、最優先事項として最高レベルのプレイヤーが常にチェンバーばかりをピックすることがなくなるよう、チェンバーを選択することによるパワー面での不利益を大きくする形で彼の弱体化を図る予定です。

チェンバーとフェニックスの経過観察

上でも触れたように、パッチ5.03ではチェンバーに変更を施したにも関わらず、彼はなおもチームの課題の1つとなっています。今後とも、Championsの直前には導入がためらわれた変更について検討を重ね、チェンバーの「ランデヴー」に対抗できるカウンタープレイの選択肢を作り出すことに集中していきます。同時に、私たちはサイファーのことも注視しており、どのようなアップデートを施せばセンチネルの中で彼に正当な立ち位置を与えらえるか検討中です。

そして、パッチ5.01で行ったフェニックスに対する変更の結果についてもお話ししたいと思います。

今のところフェニックスは──少なくともランク戦に勝利しているところを見る限りでは──わりと強くなったように見えます。データ上でも、現在フェニックスの「カーブボール」はゲーム内最強のフラッシュの1つになっています。フェニックスがより有利になったとか、プロのエコシステムに影響を与えた、またはランク戦でのパフォーマンスレベルが今後も維持されるかどうかについて言及するにはまだ早いと思いますが、すでにフェニックスをピックすることがギャンブルではなくなっていることの兆候は出始めています。

将来的には、フラッシュを使うデュエリストと比べた際のフラッシュを使うイニシエーターの適切な強みと弱みをより鮮明にするため、フラッシュを全体的に見直すことも考えています。

皆さんお待ちかねの…

またまたJohn “RiotMEMEMEMEME” Goscickiです。デザインチームの許可をもらって、記事の最後まで泳いで戻ってきました(デザインチームの皆さん、ありがとうございます<3)。最後に新エージェントについて語ってからしばらく経ちましたので、21番目のエージェントについて少しだけお話ししようと思います。

変動するメタや新マップ、ゲーム知識の全体的な増大でゲームは進化し続けていますが、私たちは常に12~14か月先に新エージェントを登場させる機会を想定しています。現在はコントローラー畑が少々干上がり気味ですので、最後に追加されたコントローラー「アストラ」をリリースした古の時代に戻って考えなくてはならない気がします。ヴァイパー以外にも、広く開けたエリアをカバーできるコントローラーを導入することは、多くの機会が期待できるブルーオーシャンだと言えるでしょう。

長く考えに浸る時間が必要でしたが、21番目のエージェントはもうすぐリリースの準備が整います。皆さんを情報の波で押し流してしまってはいけないので、今回お伝えするのはこのくらいにしておきます。

“Jald hi milte hain.”

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